デマ80の真偽分類 @kotono8

ツイッターの「東北関東大震災に関するデマまとめ」(jishin_dema)」さんが中心となって、主にツイッター上を流れるデマ情報の集積・分析・告知が精力的に行なわれており、多くの人が情報提供や検証に加わっている。震災発生直後から1週間程度がデマのピークではあったが、現在も新たなデマは生まれつつあり、また過去に否定されたデマが生き続けているものもある。

そのツイートをもとに@omiya_fctokyoさんがTogetter - 「「東北関東大震災に関するデマまとめ」のまとめ」を作成され、わたしも気がついたら編集に参加している。

今回、この「デマまとめのまとめ」をもとに、震災発生後約1カ月間のデマ80件をピックアップ、パターン別にまとめてみた。

80件のピックアップについては、明確にデマと判断できるものをできるだけ多く拾った結果である(@jishin_demaさんが「誤解を招く表現」などと表記して「デマ」と断定することを避けたものも含まれる)。これらのもととなる事例収集は@jishin_demaさんの多大な努力によるものであり、以下の文章もそれに負うところが大きいが、最終的に編集・改編した結果についてはわたしが責任を有する。

事例は類似パターンごとにまとめ、そのなかで似たものを並べた上である程度古い順に配置している。その結果、厳密な配列順ではないことをご了承いただきたい。また、これらのデマについて、有名人(大手通信企業社長や大手女性下着会社社長等)がデマ拡散に関与した事例も多いが、今回はデマ流布者を糾弾する意図ではないので、その点については省略している。

情報の混乱

当初「ヤシマ作戦」として節電することによって被災地を助けようと呼びかけられたが、実際に節電が必要なのは東京電力管内だけであること、また被災地ではなく首都圏の電力不足への対応であったことなどが後にわかってきた。これらの情報の混乱に基づくデマは、善意による拡散を伴う。その結果、正しい情報がわからずに混乱することになる。これらのデマには、不安も混じっているようだ。

  • 「関西以西でも大規模節電の必要」はデマ。関西から関東方面に送れる限界量の電力を確保。(東日本大震災にかかる関西電力の対応について
  • 「筑波大学の連絡で約一時間後には茨城にも放射能が来る」との情報。「2011/3/15 13:00」とタイムスタンプまで付いているが、サイトを調べれば簡単に悪質なデマだとわかる。筑波大学 | 最新情報 | 福島原子力発電所の事故に係る対応について
  • 「天皇陛下が京都に避難された」との噂の情報元は2ch(元レス)。宮内庁が否定
  • 「農水省に非常事態通達「明日は出勤しなくていい」」は農水省の現役の方が否定。Twitter
  • 「今日の夕方、友人に防衛省の夫を持つ人が家族に「東京から家族を逃がせ」と言われたとのこと。その後、総務省の友人にも連絡したところ、総務省はほとんど空になっています。東京にいる方、逃げて!!」(3/16)はデマ。
  • 「東京電力アカウント@OfficialTEPCOは公式を騙った偽物」というのは誤りで、本物。
  • 「富士山から煙が出ている」はデマ。富士山周辺には大量のライブカメラがあるので自分で確認できる。

科学的・医学的知識不足によるデマ

科学的・医学的な専門知識がないと真偽がわかりづらいことについてはデマが発生しやすい。その亜種としてトンデモ/疑似科学的な情報も存在する(こちらは主唱者は本気でそう信じている場合が多く、判別は容易だが対策が難しい)。

誤報が訂正されずに流布/偏向報道

マスメディアによる誤報がきちんとした形で訂正されないために、それがデマとして根強く流れる事例も多い。記事削除だけではなく、訂正(名誉回復)報道が必要だが、充分に行なわれていない。

政治家個人を貶める意図でのデマ

政府関係者などに対して、政治的に貶める意図を背景としたデマが流されている。なお、この事例集では民主党議員と辻元清美氏に対するものが多いが、実際にこれらの人たちに対するデマが多い。それを否定しているのでわたしが現政権や辻元氏のシンパと勘違いされるかもしれないが、単にそういうデマが多く、また事実ではないということである。

  • 「仙谷前官房長官が11日徳島で地震に関する不謹慎発言」はソースなし。仙谷氏は夕方まで官邸にいた(首相動静―3月11日)。
  • 「菅首相がこの間も豪華な夕食をとってる」という話はデマ。首相動静を見ると基本的に首相官邸にこもっている。
  • 「鳩山前首相 「原発から半径200キロは住めない」 九州から」という投稿は2chが初出。1-8の投稿のIDがすべて同一で極めて不自然、かつ提示されたソースは無関係な記事。ちなみに鳩山氏は当日、北海道の日高地方で現地視察を行なっていた(鳩山前首相も日高各町を視察:苫小牧民報社)。
  • 「仙谷由人氏16日から訪韓」「仙石氏が韓国を訪問している」はデマ。元々の予定も15日からだったが12日に取りやめになっている(仙谷氏、韓国訪問取りやめ
  • 「小沢一郎被災で安否不明」は誤り。都内にいた(小沢氏はいずこへ 地元入り断念、都内で調整役専念)。
  • 「蓮舫発案のコンビニの深夜営業禁止より、節電の為全国パチンコ店1週間の営業規制を政府に訴えよう」という呼びかけに関して、蓮舫氏がコンビニ規制を発案したという部分がデマ(日テレNEWS24)。逆に「石原知事は、節電の協力を求める蓮舫節電啓発担当相に対し、午後10時に消灯することや、コンビニエンスストアの深夜営業の中止など、国として政令を出すべきだと訴えた」とあり、コンビニの深夜営業中止を実際に発案したのは石原都知事。
  • 「辻本補佐官が米軍救援活動に抗議(NHK)」はデマ。同じソースのコピペと思われる文面が数多くツイートされているが、肝心のNHK報道が存在しない。初出は2chの投稿。「辻本補佐官、米軍の救援活動に抗議。「事前協議なしの着陸は安全を無視した行為。」(NHK) 」として、辻「本」という誤字(正しくは辻元)も含めてそのままツイッターで拡散された。辻元清美事務所も公式に否定。
  • 上記デマに加え、「さすが阪神大震災の被災地で「自衛隊は違憲です。彼らから救援物資をもらわないで!」とビラを配った馬鹿者」と追記されたものも出回ったが、こちらもデマ(辻元清美氏と阪神大震災)。デマの初出が2009年。震災当時ピースボートが配布したちらしにもそのような趣旨は見られず。
  • 「辻本大臣原発内の瓦礫除去に戦車投入反対(NHK)」はニュースの存在が確認できないデマ。先のデマと同様の「辻本」という表記の誤りあり。出典は2ch
  • 「民主党(orピースボート)による物流阻止を梅沢富美男氏がミヤネ屋で証言」はデマ。本人がブログで完全否定(梅沢富美男オフィシャルブログ)。
  • 「ピースボート(PB)が福島で救援物資を足止め」はデマ。「辻元清美らの悪行!裏がとれたぞ!|スミスのブログ」において情報源とされる「あ~るさんの日記」の出所が不明。一方、ピースボートスタッフ大畑氏によれば、ピースボートは福島では活動していない(Togetter - 「ピースボートの物資横流しがデマである俺的解説まとめ」1234)。なお、辻元清美氏は15年前にピースボートを離れている。

外国からの支援を政府が邪魔するというデマ

外国からの支援を政府が妨げたという種類のデマは一グループにできる。

政策・政党・政権に対する批判的デマ

政府を批判する趣旨のデマも多く流れている。「そんなひどいことをやってるのか!」という怒りを増幅させる効果のあるデマだ。

その他の個人・企業・団体を貶めるデマ

外国人差別を背景としたデマ

特に悪質なのは、関東大震災時の「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマとまったく同じ類の、「韓国・朝鮮・中国人が暴動・略奪・レイプ等を行なっている」という根も葉もないデマである。これらのデマは特定の層が執拗に流していることが確認されている。このような差別意識を背景としたデマを流すような人間がいるということになれば、「日本人は低劣だ」と思わせることにもなりかねない。そういう行為こそが本当の意味での「反日」ではないかと思うのだが。

日本ユニセフ、アグネスへの攻撃

わたし自身はいわゆる「非実在青少年」問題において創作上の表現規制に反対する立場であり、その点においてアグネス・チャンさんなどに対しては批判的な意見を持っている。だが、その批判において、デマやウソで攻撃することは完全に誤りだと考える。これはアグネス擁護ではなく、アグネス批判者が「デマで攻撃するような奴ら」だと思われたくないという気持ちもあることを理解していただきたい。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎し」はよろしくない。

  • 「アグネスさんの折鶴紛失」は2chのネタ(不謹慎だけどお前らが爆笑しそうなニュース考えた)。スレタイにも明記。3/15に投稿されたにもかかわらず、記事の日付は3/18。
  • 「寄付まとめ:ブリトニー6億 ガガ゙1億 東芝5億 パナソニック3億+物 トヨタ3億 キヤノン3億 三菱東京UFJ銀、三井住友銀、みずほグループ、シティバンク銀、野村證券、大和証券 各1億 ビカス(ネパールカレー屋)10万円 大富豪アグネス・チャン:折り鶴」というコピペは意図的な編集。アグネスは折り鶴も折ったが、当初から募金もしていた(Togetter - 「「募金 アグネス 折り鶴」という不正確な情報の拡散」)。
  • 「日本ユニセフは国連のUNICEFとは無関係の団体だから募金してはいけない」という説に関して、少なくとも無関係というのは誤り。UNICEF公式より、アグネス・チャン氏写真UNICEF公式から日の丸をクリックすると日本ユニセフ協会に飛ぶ。「全額を日本の災害救済に使わない」という表記は公式サイトにも記載されているが、Apple Storeから米国赤十字社へ寄付できるページにも同様の文面が書かれている(該当部分強調画像)。おそらく、契約社会のアメリカにおける寄付行為の説明責任の常套句。
  • 「日本ユニセフが震災義援金を他用途へ」という情報は、余剰発生分のみ。日本ユニセフは自らの口座から拠出する1億円+集めた義捐金を本部に送り、原則全額支援に充てると明示(日本ユニセフ協会お知らせ)。
  • 「フジテレビ募金の行き先は日本ユニセフ」はデマ。実際には日本赤十字。

被災地に関する不正確な情報

現地入りすることが難しいために、被災地に関する不正確な情報が流れた。

  • 「宮城県花山村が孤立」はデマ。花山村は合併で栗原市になっており、現在は存在しない。
  • 「いわき市田人で食料も水も来ていなく餓死寸前」はデマ。いわき市議が否定。14日から給水も始まっていた。
  • 「北茨城・高萩乳児餓死」はデマ。県議が否定、県による乳児の死者報告なし。「このままでは茨城で餓死者が出かねない」というツイートがあったが、17日ごろから「餓死者が出た」「赤ちゃんが亡くなった」に変化。
  • 「石巻の避難所で幼児が餓死」は未確認。3月15日の辰巳琢郎氏ブログ記事に端を発するが、本人が訂正と補足をしている(辰巳琢郎オフィシャルブログ)。
  • 「新幹線はやぶさ震災のため廃車」という情報について、公式発表はないが廃車の事実は認められず。4本中2本は地震発生時新青森の車庫にあり、2本は仙台で無事。「(東北新幹線再開後も)徐行運転では最高速のイメージが損なわれる。一方、新型車両が東北に元気を与えることも考えられ、すぐに運転再開させるか悩んでいる」との談話あり(JR東日本:大震災後は4割減収)。

好意的すぎる予断

悪意を持って貶めるデマは非常に多いが、一方で好意的な予断によって「あの人ならそういうことがあってもおかしくない」と思われて生まれたデマも多い。悪意がなくてもウソはウソという典型例。

  • 「ワンピースの尾田栄一郎さん15億円寄付」はデマ(アメーバニュース
  • 「トルコが100億円支援」はソース無しの上、記述の一部が明らかに間違い(Togetter)。トルコからの救援自体は実際にあった。
  • 「天皇陛下が地の神を鎮めるために徹夜で24時間の祈祷」は、ソースがブログ・2c・Twitterとグルグル回ってどこにも行きつかない。明らかなネタ。神道的にもおかしい。
  • 「ジャッキー・チェンさんが全財産を東日本大震災の被災地へ寄付」は不正確で、二つのニュースが融合したもの。ジャッキーは、息子(ジェイシー・チェン=房祖明)に遺産は残さず、全財産を何らかの形で寄付する、と発表した(すでに資産の半分は寄付済み)。一方、今回の震災に対しては香港での4月1日のチャリティーイベント「愛心無国界 311燭光晩会」を主催、個人でも300万香港ドル(3200万円)を寄付した。この二つの情報が誤って融合したものだが、産経などの見出しが誤解を生みかねない表現だった。

ネタから出たデマ

もともとネタだったものを本気で取る人がいたためにデマ化したもの。だからといってネタ禁止というのも堅苦しいと思うのだが。最後に実害の少ないネタもここに入れておく。

  • 「枝野官房長官105時間ぶりに就寝」は、「枝野寝ろ(#edano_nero)」を踏まえたネタ(@krnmrr)。つまり、枝野「寝た」という「ネタ」だった。そもそも枝野官房長官が105時間寝てないという話も根拠なし。参考までに、地震発生からの経過時間は当時約80時間。
  • 「静岡ガンダム崩壊」は以前作られたネタ画像(Togetter)。
  • オバマ大統領の演説(諸君がまもなく赴く戦いは、人類史上最強の救出活動となるだろう)」は映画「インディペンデンス・デイ」の台詞の改変パロディ
  • 「「不謹慎」自粛を要請」の画像は偽新聞のネタ(Twitpic)。
  • 「【速報】原子力保安院が重大な隠匿・捏造」(写真等)は、タイトルに反して「実はズラだった」というネタであるが、実はそこで比較されている写真自体が別人のものだった(ズラか否かは不明だが、写真は別人)。
  • 「ACの『ぽぽぽぽーん』を歌っているのは矢野顕子」は誤り。歌は松本野々歩さん(公式サイト)。

デマを生み出すもの

以上、震災後1カ月足らずの間に流れて明らかなデマと判断できる80件をサンプルとして抽出した。

根本的には、このような混乱時に「信じたい情報」をつい信じてしまうという心理が背景に横たわっているように思われる。

これらを分類すると、「混乱」「無知」「誤解・誤読」「悪意・攻撃」「差別」「好意」「情報不足」「ネタをネタと理解できない」といった要因が見て取れる。これをさらにグループ分けすれば、「混乱・無知・誤解・情報不足」という情報の問題(真偽不明の情報が多すぎても混乱、少なすぎても混乱)と、「悪意や差別的意識にもとづいて意図的に流された攻撃的デマ」の二種類があることがわかる。

もちろん、悪意による攻撃を意図したデマが最も重大であることは言うまでもない。少なくとも、わたしたちは意図的にこのようなデマを作成したり、その流布に荷担したりしないようにする必要がある。そして、そういうデマに荷担することは、自分自身の品性を貶める(自分自身を損ない、傷つける)行為だと自覚する必要がある。

次いで、情報の混乱によるデマについては、どうしてもデマを見抜けない場合が出てくるだろう。これは速やかな訂正と正しい情報を拡散することで対処するしかない。ツイッターの場合なら、「間違ってました」とツイートするだけでなく、誤った情報を書いたツイートを即座に削除することが必要である(消さないといつまでも流布してしまう)。

最後に、ネタはネタとして「息抜き」と考えるべきだろう。騙されたら笑って頭をかけばいい。逆に言えば、こういう時期なのだから、シャレになるネタをやるべきだ。まあ中にはDHMO(一酸化二水素)ネタで激怒するようなおかしな人もいるわけだが、そんな人まで相手にしていたらきりがない。人を傷つけたり貶めたりするのではないユーモアは、今の時期だからこそ必要ではないか。

今回はとにかくざっとまとめてみたレベルである。社会学/社会心理学的には、これらのデータをもとにまた分析することが可能だろう。

デマ関連ページリンク

震災後のデマ80件を分類整理して見えてきたパニック時の社会心理[絵文録ことのは]2011/04/08

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