以上、マクラでした。
さて、その上で、平田発言を吟味したい。
これは私がAERAの今週号に書いたことにだいたい符合している。
私はこう書いた。そのまま採録する。菅首相が浜岡原発の停止を要請し、中部電力がこれを了承した。政治的には英断と言ってよい。メディアも総じて好意的だった。でも、なぜ急にこんなことを菅首相が言い出し、中部電力もそれをすんなり呑んだのか、その理由が私にはよくわからない。経産省も電力会社も、「浜岡は安全です」って言い続けてきたのだから、こんな「思いつき的」提案は一蹴しなければことの筋目が通るまい。でも、誰もそうしなかった。なぜか。
政府と霞ヶ関と財界が根回し抜きで合意することがあるとしたら、その条件は一つしかない。アメリカ政府からの要請があったからである。
もともとアメリカが日本列島での原発設置を推進したのは、原発を売り込むためだった。ところがスリーマイル島事故以来、アメリカは新しい原発を作っていない。気がつくと「原発後進国」になってしまった。でも、事故処理と廃炉技術では国際競争力がある。
福島原発の事故処理ではフランスのアレバにいいところをさらわれてしまい、アメリカは地団駄踏んだ。そして、「ではこれから廃炉ビジネスで儲けさせてもらおう」ということに衆議一決したのである(見たわけではないので、想像ですけど)。
だから、アメリカはこの後日本に向かってこう通告してくるはずである。「あなたがたは原発を適切にコントロールできないという組織的無能を全世界に露呈した。周辺国に多大の迷惑をかけた以上、日本が原子力発電を続けることは国際世論が許さぬであろう」と。
その通りなので、日本政府は反論できない。それに浜岡で事故が起きると、アメリカの西太平洋戦略の要衝である横須賀の第七艦隊司令部の機能に障害が出る。それは絶対に許されないことである。
だから、アメリカの通告はこう続く。「今ある54基の原発は順次廃炉しなさい。ついては、この廃炉のお仕事はアメリカの廃炉業者がまるごとお引き受けしようではないか(料金はだいぶお高いですが)」。
むろん「ああ、それから代替エネルギーお探しなら、いいプラントありますよ(こちらもお高いですけど)」という売り込みも忘れないはずである。
ホワイトハウスにも知恵者はいるものである。(引用ここまで)驚いたことに、菅首相の浜岡原発操業中止要請を中部電力が承諾した時点から、ほとんどすべての新聞の社説は(週刊誌を含めて)、ほぼ一斉に「脱原発」論調に統一された。
脱原発の理路 (内田樹の研究室)