

今回示された観光政策の「ビジョン」が、画期的だと言える大きな理由が3つある(撮影:尾形文繁)2012年から2015年の3年間に劇的に伸びた経済指標として、インバウンド関連の指標が挙げられる。訪日外国人旅行者数は836万人から約2倍の1974万人に、訪日外国人旅行消費額は1兆846億円から約3倍の3兆4771億円に――観光政策は、「アベノミクス最大の成果」と言っても過言ではないだろう。その観光政策が、さらにもう一歩進化したという。何が新しいのか。書籍『新・観光立国論』や、その続編『国宝消滅』などで日本の観光政策に関する提言を続けているイギリス人アナリスト、デービッド・アトキンソン氏が解説する。 ベストセラー『新・観光立国論』に続く、観光立国の必読書! 国宝をはじめとした文化財が陥っている「窮地」を明らかにするとき、日本経済再生の道が見えてくる。規格外の知的興奮!3月30日、日本の未来に極めて大きな影響を与える画期的な「ビジョン」が示されました。2020年の訪日外国人観光客数を4000万人、外国人旅行消費額を8兆円。同じく2030年には6000万人で15兆円の消費を目指すという明確な数字と、それを達成するため、赤坂迎賓館や京都迎賓館という公的施設の開放や、文化財や国立公園の活用など10の改革案を、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」が提示したのです。訪日外国人観光客数2000万人突破が目前となった昨年秋から開催されているこの会議は、安倍晋三首相を議長として菅義偉官房長官が副議長、国交相、財務相、地方創生担当相、経産相などの閣僚から編成されています。そういう意味においては、これは「政府が示したビジョン」と言っても差し支えないでしょう。ただ、そう言われても、なぜこれが画期的なのかと首を傾げられる方も多いでしょう。大きな理由は3つあります。まず、ひとつはようやく「日本のポテンシャルに近い目標」になったということです。理由1 目標が「ポテンシャル」に追いついた私は拙著『新・観光立国論』(東洋経済新報社)のなかで、日本がもつ自然、文化、気候、食事など幅広い観光資源をふまえれば、現時点の日本の潜在能力でも5600万人は集客可能で、今後も世界の市場拡大を反映し、2030年には8200万まで増加していくと予測しました。その関係で、この「構想会議」でも、「有識者」として参加させていただいているのですが、今回の目標が出される前にほかの参加者のみなさんと、「どれくらいの目標が掲げられるのか」を話題にしていました。2020年には3000万人、2030年には4000万人くらいではないかと予想される方が多い中で、私だけが2020年に4000万人、2030年に7000万人という予想を立てていました。周囲はアグレッシブな数字だと驚いていましたが、私はかなり現実的な数字だと思っています。年間約3300万人の外国人観光客が訪れるドイツの人口は約8500万人です。同じく約3200万人が訪れるイギリスの人口は約6500万人です。人口約1億2700万人で、自然や文化財に恵まれる日本の目標値が3000万人というのは、いくらなんでもハードルが低過ぎます。そのように考えていたところ、安倍首相が掲げた目標は2020年に4000万人、2030年に6000万人。私の予想をやや下回りましたが、極めて実現可能な数字だと思いました。画像を拡大その他にも、ポテンシャルに即した目標値が並ぶ(出所:観光庁ホームページ)ご存知のように、霞が関が出してくる目標というのは往々にして保守的なものが多いのですが、今回はそんなことはありません。このような日本の潜在能力を考慮した現実的な目標が設定されたというのは、大きな前進でしょう。画期的なのはそれだけではありません。それが2番目の理由である「旅行消費額」です。理由2 人数だけでなく「消費額」が示されたこれまで政府が出す「観光」に関する目標で、このように明確な消費額の数値目標が示されたことはありません。さらに特筆すべきは、8兆円→15兆円という、観光客数を上回る成長率を目指していることから、「観光客ひとりあたりの単価」を上げていく戦略が読み取れることです。これは中国の中間層・富裕層をこれまで以上に積極的に呼び込むことはもちろん、現時点ではほとんど来日していない、欧州などの遠方からやってくる中間層・富裕層、長期滞在客なども視野に入れていることのあらわれです。このような発想の転換も、日本の観光行政が次のフェーズに変化していて、どんどんレベルアップしている証拠です。それが出てきたということは、いよいよ日本という国が「観光で稼ぐ」ことに対して本気になってきたのではないかと大いに期待できるのです。明らかにこれまでとは違うことが始まろうとしている――それは「目標」だけではなく、ビジョンを実現するための施策にも顕著にあらわれています。それが3つ目の理由です。ある意味で、私はこれが一番衝撃を受けました。理由3 目標から「おもてなし」の文字が消えた「ビジョン」の中にある『「観光先進国」への「3つの視点」と「10の改革」』を見ていただくと、さまざまなことが書いてあります。画像を拡大日本の観光政策では必ず登場していた「おもてなし」の文字が消えた(出所:観光庁ホームページ)これまでは外国人観光客はおろか、日本人ですらあまり立ち入ることができなかった赤坂や京都の迎賓館を大胆に公開・開放したり、自然保護がメインだった「国立公園」を体験・活用型の空間にするなどさまざまな「規制緩和」がなされていますが、そんな中、あることに気づくはずです。ここには、数年前から日本の観光ビジョンに必ず盛りこまれていた「ある言葉」がありません。「外国人観光客」を語る文脈では必ずといっていいほど登場していたあの言葉。そう、「おもてなし」です。「おもてなし」について、私はかねてから観光の支持要因であっても、決定要因ではないことを指摘させていただいております(参考:「英国人、『おもてなし至上主義』日本に違和感」)。これまでの著書のなかでも、私は「観光」というのは「多様性」がもっとも大事だと訴えてきました。ひとくちに外国人観光客といっても、国籍も違えば年齢も収入も違う、日本にやってくる目的もバラバラです。同じ人間であっても、2週間も滞在していれば、ずっと同じような観光をしていることもありません。そのような幅広いニーズに応える、細かい施策が必要なのです。日本の魅力は「あるもの」ではなく「磨くもの」これまでの日本の観光戦略は、「おもてなし」や「クールジャパン」など、日本の良さを見つけて、それを世界に発信さえすれば、観光客が訪れてくれるという考え方が多く見られました。それらは、外国人の多くが、新幹線の清掃チームの手際の良さを表した「7分の奇跡」に象徴される「おもてなし」や、「桜」などの日本の伝統美を好むはずだと考えてつくられた面もあったと思います。私はこのような「発信」というのは、外国人のニーズをしっかりと分析をして、その観光資源の魅力を磨いたうえで行うべきだと考えてきました。それはあくまで観光を「ビジネス」としてとらえているからです。「明日の日本を支える観光ビジョン」の中にある「文化財を保存優先から観光客目線での理解促進、そして活用へ」「国立公園を世界水準のナショナルパークへ」という具体的な施策が象徴するように、日本の観光戦略は、資源の魅力を磨いてから発信をするという戦略へと大きく舵を切りました。このような発想の大きな転換こそが、「明日の日本を支える観光ビジョン」の意味することなのです。
情報源:
「おもてなし」が観光政策から姿を消した理由 | 国内経済 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

フォーシーズンズと同じ体験を機内でも再現。シックな外装も気分を盛り上げてくれる
日本政府観光局によると、昨年12月までの訪日外客数が1973万人(推計値)に達し、過去最高を記録した。増え続けるインバウンド需要のなかで、シー・ユー・チェンが富裕者層の嗜好について考察した。
外国人旅行者をどう取り込むか考えている
当記事は「GQ JAPAN」(コンデナスト・ジャパン)の提供記事です
いま、日本中の観光地がインバウンドの外国人旅行者をどう取り込むか、以前にもまして真剣に考えている。これからはさらにアッパーな中間層や富裕な人々が来日すると予想されているからだ。現在、その7割がアジア人とされる訪日旅行客は年間3.7兆円以上の巨額を日本に落としていく。
しかし、フランスでは外国人旅行客の消費額は年間20兆円とされており、それと比較するとまだまだほんの5分の1にすぎない。美術館や歴史的な建造物、美しい都市景観、さらにはファッション、グルメ、ワインなど、フランスに行かなければ味わうことのできない体験価値を、フランスはいろいろなレベルで提供していることが強みで、お金があってもなくても旅行者はそれぞれのレベルでフランス体験を満喫できる。
リッチならリッチなりに贅沢の限りを尽くせるし、さほどリッチでなくても、たとえばパリであれば、ルーヴルやオルセーの美術館で日がな一日過ごしたり、セーヌ川を遊覧したり、たんにパリのあちこちを散策したりしてロマンティックな情緒にひたることができる。
さて、富裕層といってもいろいろである。多少、粗いくくりになってしまうが、いままで手にしていなかった富を急に手に入れてしまったアジアの富裕層と、歴史的な文化的価値を幾世代にもわたって尊重してきた欧米人富裕層とでは、おなじものを見ても見方がまったく異なるということはあり得る。モノを買うといった形而下の快楽を追い求める者もいれば、モノよりもむしろ形而上学的な精神文化を享受することに重きを置く人もいる。そして、一般論としていえば、欧米の富裕層と比較してアジアの富裕層は、いまのところはどうしても、自己顕示的消費に走りがちである、といえるだろう。
そのいい例がある。昨年、中国人の億万長者Lin Jinyuan氏は、従業員6400名を引き連れてパリとコートダジュールを訪れ、パリ市内の140軒のホテルとニース、カンヌとモナコのホテル4760室を借りて、自分の会社の設立20周年を祝った。パリからニースへの移動には147台のバスを手配し、ギネスレコードとしてヒューマンチェーン(大勢の人が手をつないで人垣を築くこと)ならぬ“バスチェーン”記録に登録しさえした。このLin氏一行の“爆遊”によるフランスへの経済効果は、なんと3300万ユーロ(約44億円)に達したそうだ。これはまさしく自己顕示的消費そのものである。
では、Lin氏さまご一行を、日本はどうもてなすのだろうか? フランスにはパリやニース、カンヌがあり、そのとなりにモンテカルロがあるとすれば、日本には東京、箱根、富士山、京都、大阪があり、北海道のスキー・リゾートも常夏の沖縄もある。日本の場合はアジアの富裕層が中心だから、かれらにこうした日本の文化的、歴史的資産を活用してどんな体験価値を提供できるか、ということが問題になる。
富裕者層が求めることを知らなければならない
しかし、多くの観光地は、点の訴求である景勝地、歴史的資産、文化施設、グルメ、高級ホテルなどのリスティング以上のことはなかなかできないでいる。訪れた観光客に対して、さまざまな旅行体験価値をシームレスに継続させて提供するプログラムやノウハウに乏しいのが現状だ。しかし、そうしたプログラムを提供するには、今日の富裕者層が求めていることを知らなければならない。そのヒントになる例がここにある。
それは、24日間世界一周を12万ドルで提案するフォーシーズンズ・ホテルによるパーソナルなプライベート・ジェット・ツアーである。もっとも際だった特徴は、ふつうなら生じる“待ち”の時間をすべて徹底的にカットするサービスにある。スタッフは、読みかけの本にブックマークのしおりすら挟んでくれるし、いつでも気を利かせてシャンペンやコーヒー、チョコレートやローカルのスナックなどなどを持ってきてくれる。プライベート・ジェットを使うから空港での混雑にも遭遇しない。
目的地や経路にしても、イスタンブールからサンクトペテルブルクに向かったあとにはマラケシュ、そしてニューヨークへと、自由に選ぶことができる。待ち時間なしにさまざまな体験を、シームレスにつなぐことができるのだ。荷物だって夜、ドアの外に出しておきさえすれば、次の国に到着したときには、その国の宿に届いている。出国および入国の手続きもスタッフがすべて整えてくれて、サインするだけである。ジェットに乗り込むときは機体のタラップに高級車をつけるし、降機すれば、むろんハイヤーが迎えに出ている。
そして、到着した国では、スタッフが現地でお土産を買える分の現地の通貨が入った封筒を手渡してくれるし、通常は長時間並ばなければ入れない美術館にも、誰もいない時間帯に入ることができたりする。また、ロシアの宮殿ではバレエとオペラを鑑賞しながらディナーをエンジョイでき、万里の長城の上にテーブルセッティングして饗宴に興じることもできるのである。1日で3大陸を訪れることも不可能ではないし、毎朝、いろいろなオプションから好きな目的地を自由に選定することができる。ちょっとつかれたから中休みにモルディブのプライベートビーチでなにもせずに過ごそうと思ったら、すぐにでもそれが実現できる。
というようなことをヒントにして、日本にやってくる富裕層向けのサービスを考えるとしたら、どんなことができるだろうか。それが私の提案である。
��Text: Sy Chen )
情報源:
訪日の超富裕層は一体、何を求めているのか | GQ JAPAN | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準



By GEORGE NISHIYAMA
2016 年 4 月 28 日 16:35 JST
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版では、既存の価値観にとらわれずに社会を変えようとしている各界のリーダーたちへの編集長インタビューをお届けしています。
今回は星野リゾートの星野佳路代表に伸び続ける訪日外国人需要に沸く日本の観光業界の現状と見通し、そして海外にも進出を果たした星野リゾートの成功の秘訣などについてお話を聞きました。
―記録的な訪日客数により、いわゆるインバウンド消費の恩恵を受けている国内観光業は安泰なのか
インバウンドが増えたと言っても日本の観光消費額の10%にやっとなって、それが15%になろうかというところ。国の(インバウンド)目標を達成してもそれが20%を超えるかという程度。つまり7割か8割は日本人による国内観光消費。そこが問題。2013年から14年にかけて象徴的な出来事があった。インバウンドは1.7兆円から2.2兆円に伸びたが、20兆円近くあった国内市場が落ちて、トータルの旅行消費額は落ちた。
しかし東京にいると実感がない。なぜか。東京でのインバウンドは伸びている。しかし地方にはまだインバウンドは来ておらず、国内需要だけ。だから地方にいると観光は全然成長していないではないかと感じる。一方で東京、大阪、京都の人たちはインバウンドで観光立国に近づいているのではないかと感じている。
15年は国内需要も若干伸びて、インバウンドも伸びた。今後も両方伸びることはあるが、どんなにインバウンドが伸びても、もともとの分母が小さいので分母の大きい国内市場がちょっとくしゃみをするだけで、必死に伸ばしてきたインバウンドの分を吹き飛ばしてしまう。インバウンドと同じように国内需要にも目標を置いて、国内需要の維持をやっていかないといけない。
―日本は今後も人口が減少していくが、国内需要の縮小もその結果なのか
国内需要が落ちているのは人口減少ではなく、今のところは参加率の低下による。特に20代の若者が1年に国内旅行をする回数が落ちている。参加率はこの10年で60%から50%に落ちた。今は半分の人しか年に1回以上観光旅行をしない。つまり半分の人は全くしない。
だからシニア割引でなく、「若者割引」と言っている。JRも美術館などもシニア割引はあるが本当に割り引かなくてはいけないのは若者だ。なぜなら若者はこれから結婚し、子どもが生まれ、家族旅行をしてくれて、旅行産業を何十年も維持してくれる。この人たちが「旅行って楽しい」と思い、旅行習慣を持ってくれないと市場は縮小してしまう。もうちょっと政府も「国内需要を維持します」「特に若者旅を増やします」という具体的な政策を出し、それにマスコミも注目し、「インバウンドは伸びたが、国内需要は対目標でどうだったのか」と質問してくれるとよいのだが。
―政府が関わることではないとの見方もあるが、業界の「若者割引」への反応はどうか
業界の賛同はまだまだ。政府がお金を出して割り引くということではないが、政府が働きかけることはできると思う。例えば業界に投げかけたり、若者割引をする観光地を観光庁が積極的にPRしたりするなどサポートすることはできる。そういうところにもっとエネルギーやコストをかけて欲しい。
7月の開業に向けて建設中の星のや東京 ENLARGE
7月の開業に向けて建設中の星のや東京 PHOTO: HOSHINO RESORTS
昨年の春、シールさえ貼れば小さなタトゥーは温泉でもOKにしますと言ったら、日本のお客様からたくさん電話が掛かってきた。怒ってらっしゃる人、これで娘と一緒に温泉に行けるという人、同業他社からは風穴を開けてくれたとの声もあった。すると観光庁が実態調査に乗り出して、ガイドラインを出してくれた。あれも民間側から解決しなくてはならない問題だと踏み切り、観光庁がガイドラインを出してくれて我々もやり易くなった。
若者割引も業界全体の動きとなるとインパクトはある。3世代旅行でスポンサーは祖父母世代。そこを割り引く意味はないのではないか。割り引くなら長い間旅行をしてくれる若者だ。
―タトゥー用のシール導入のきっかけは
ニュージーランドのロトルア市という温泉で有名な場所があるが、そこの市長が日本の温泉地に視察に来られた。ロトルア市の人口の3割はマオリ族で市長のご主人もマオリの人。夫婦で日本の温泉地に来たら温泉に入れなかったと言われたのを聞き、「これはまずいな」と思った。わざわざ飛行機に乗って日本に来て、まさか民族的なことで温泉に入れてもらえないなどとは知らない。何か解決策を考えないとこれからのインバウンド時代に良くないと感じた。
また、現場に確認すると小さなデザインタトゥーをつけている日本の若い人が「小さいからいいだろう」と温泉に入っている。それを見た年配の方が「なぜ入っているのか」とホテルにクレームを出す。これは何か折り合いをつけないといけない。若者の旅行参加率が落ちている中で若者に一切入れませんよとも言えない。その二つがきっかけだった。
入れ墨が反社会勢力の象徴だったことから温泉にはダメだとなった。それがすり替わって入れ墨がダメになってしまった。(星野リゾートの温泉旅館)「界」で試験導入してきたが、箱根ではシールを2枚渡している。1枚が8センチx10 センチだから80平方センチ。2枚で160平方センチになった。だから「160平方センチからの温泉文化変革」と呼んでいる。
―インバウンドに戻るが、現状はバブルなのか
(現状のレベルからの)修正は必ず入る。インバウンドが増えているのは円安とテロを含めた地政学的な要因があり、増え方にゲタを履いている。そこの部分はなくなると思ったほうがいい。
今はたまたま日本に色んな風が吹いて、恵まれている環境だ。これが永遠に続くと錯覚するのは危険。今こそ本当の実力を磨くことにお金やエネルギーを使わなくてはいけない。しかし日本の観光の歴史を見ると単にブームを作ってきた。例えば、「団体旅行」「修学旅行」「スキー旅行」「海外旅行」とブームで終わらせてしまった歴史がある。
スキーが典型。当時あれだけ増えたのは学生が夜行バスに乗って行っていたから。(業界としては)「学生でお金ないからこの程度のサービスでいいだろう」という対応だった。その後、学生は社会人になり、結婚して子どもが生まれ、さあスキー場に行こうかと思ったが、子連れであんなきつい旅行はできないと。学生の時の経験がトラウマで残っている。
今回も「インバウンド・ブーム」で終わらないか。今来ている海外の人たちが「日本にはまた来たい」と思って帰っているのか。(観光業界が)「安い中国の団体だからこの程度のサービスでいい」としていないか。そういうことが将来の本当の実力につながっていくと思う。
具体的にはハードの投資が圧倒的に足りない。中国の人も世界中に行っているので日本の地方は見劣りする。建物が古い、設備が古い。バブル時代のものをだましだまし使っている。今こそ地方で設備投資をしないといけない。それには収益。だから休日分散化。それによって稼げる日を増やす。収益が高まると設備投資に踏み切れる。そうすると日本の本当の実力が高まり、よい循環になる。
―休日分散化への反応はどうなのか
休日分散化は2004年に言い出した。具体的には大型連休の地域別分散化だ。1週間ごとに日本を5ブロックに分けて交代で1週間休もうと。言い出したときの反応は悪かったが良くなってきている。自分のツイッターなどを見ているとゴールデンウィーク(GW)中に「早くやってくれ」との声が多い。まるで渋滞の中からツイートしているのではないかという印象だ。
―地域別にすると例えば遠方の祖父母らと一緒に旅行できないとの指摘もあるが
GWまで祖父母と一緒に旅行する人がどの程度いるのか。土日を分散しようとしているのではない。正月は家族・親戚が集まり、お盆は宗教的な色彩があるが、導入するのはGWとシルバーウィークだけ。もともと無理やり連休を作って、休日を使ってレジャーに費やしてほしいと出来たもの。本来の趣旨からしても旅行やレジャーにあてて、混雑がないように分散するべきだ。
九州の子どもたちはディズニーランドに行った比率が低いという結果がある。GWに行こうとしてもホテルは満室、園内の待ち時間は長い。そして値段が高いからだと。分散化を試験導入してもらえればメリットを享受して、その良さが分かるはずだ。フランスやドイツではすでにやっている。
―リニア中央新幹線計画にはあまり賛成されていないようだが
海外の人に聞くと新幹線が遅いという人はいない。新幹線は正確で早いと驚く。不満は何かと聞くと、値段が高いと。リニアは不満のないスピードを早くして、不満のある価格を上げる。ニーズのヒアリングと逆行する政策を取っている。もう少しお金を払っても一層早くして欲しいというのが関西空港から大阪・京都へのアクセス。関空と大阪・京都にリニアを走らせるほうが、何十年も掛かって東海道にリニアを走らせるよりよほどいいと思う。
―星野リゾートは海外を含め30以上の施設を運営するまでになったが、成功の秘訣は何か
親から継いだ時に将来の目標設定を大きくしたことが大きかった。留学していたのでクラスメートから見て「さすが」と思われる日本のホテル会社を作りたいと当初から目標設定をした。目標があることによって取るべきリスクと行ってはいけない事業が分かりやすくなる。
2016年開業予定の星のやバリの運河プール ENLARGE
2016年開業予定の星のやバリの運河プール PHOTO: HOSHINO RESORTS
父がやっていた旅館はかっこ悪いと思っていた。酔っ払いがいっぱいいるし、部屋はハワイのホテルの方がかっこいいし。アメリカに行く段階では継いだら早く潰そうと思っていた。ところが向こうで大学に2年間行き、日系ホテルで3年間働いた結果、やはり西洋のホテルを日本で作っても、結局は真似事に見えると思った。もう一度日本のホテル会社が世界を目指していく時に、真似事ではないと思われる形で行かないと勝てない。
コーネル大にいる間によくあったが、例えば日本人がフォーマルな式典にスーツを着ることさえ、同級生は「日本は1000年の文化があるのになぜイギリス人の制服を着ているのか」と指摘する。それは日本に対する期待。つまり、日本の会社が運営するホテルというだけで彼らが期待することがある。エギゾチックなんじゃないか。おもてなしというすごい世界があるのではないかと。だから日本に帰って、すごくかっこ悪いものをすごくかっこよくする以外に先はないと思った。だから「星のや」(旅館)になった。軽井沢は西洋のホテルの町だが、どうしても日本的でないと先がないと。それで「星のや」のようなかたちになった。和を中心にしていこうというのが発想だった。
―コーネル大の同級生は今も同業に多いだろうが、彼らとの関係は
同級生だけにはバカにされない日本の宿をと思って作ってきたので自信はある。いつも何か企画していて最後に思うのは、「あいつらが見てどう思うか」。バカにだけはされたくない。その気持ちがずっと強かった。
インタビューを終えて
星野リゾートの成長に加え、日本の観光業に対する提言でも注目されてきた星野氏だが、その原動力は大学時代を含めた米国での経験だと感じた。同じく海外で暮らしたことがある者として共感できるのが、海外に行って初めて日本の良さに気付くこと。日本のホテル会社が海外で通用するためにはまず継いだ「すごくかっこ悪い」日本旅館を「すごくかっこよくする以外に先はないと思った」という言葉はその象徴に感じられた。
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PHOTO: BLOOMBERG
星野佳路
1960年、長野県軽井沢町生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院で修士課程修了。1991年、星野温泉(現在の星野リゾート)社長に就任。所有と運営を一体とする日本の観光産業で運営特化戦略をとり、経営難に陥った施設の再建で注目される一方、星野温泉旅館を改築し、2005年「星のや軽井沢」を開業。現在運営する施設は国内外35カ所に及び、今年「星のや東京」「星のやバリ」の開業を予定。
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西山誠慈
2011年よりWSJ東京支局にて経済政策報道の編集責任者を務め、アベノミクス発表当初から日本銀行による大胆な金融緩和政策などについて報道を行ってきた。2014年には、プロを目指す高校球児を1年にわたって取材した長編記事を執筆。2014年12月より現職。WSJ入社以前は18年間ロイター通信社にて金融市場、経済政策、政治、外交など幅広い分野を担当。1993年早稲田大学政治経済学部卒業。ニューヨーク出身。
情報源:
【編集長インタビュー】「インバウンドで観光立国」の落とし穴=星野リゾート代表 - WSJ