テレビ局の”ステマ手法”を暴いた「週刊新潮」16年12月22日号
「週刊新潮」の見事なスクープだった。
16年12月15日(木)に発売された「週刊新潮」(16年12月22日号)には、疑惑のテレビ番組についての記事が載った。
テレビでも「ステマ」が横行していた、という事実を伝える記事だ。
残念なことにテレビ局やテレビ番組への不信を募らせるようなセンセーショナルな見出しが並ぶ。
「ステマ番組」「テレビ局の裏金」
筆者はテレビ放送について研究している人間である。
この記事に関連して、「週刊新潮」側から相談を受けて取材に協力し、関係資料や当該番組を視聴した。
その上で、この記事が行った「ステマ」の問題提起は決して小さくはないと感じている。「ステマ」は視聴者を裏切る行為だ。
テレビ不信が広がり、テレビ離れが進行する現状に歯止めをかけるためにも、放送業界はこうした悪弊を断ち切らねばならないと強い危機感を抱いている。
記事によると、問題の番組はTBS系列のIBC岩手放送が制作し、15年9月に岩手県を含む東北6県で放送した『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?』。宮下純一、谷澤英里香のタレント2人が岩手県内に住む外国人のところを訪ねて歩き、健康法を聞いていく、というもので実際に地元ではそれなりに知られた外国人を紹介する。だが、その中で誰が見ても唐突で不自然な場面が目につく。
実際に岩手で撮影した映像ばかりが流れていたと思ったら、唐突に東京の順天堂大学免疫学講座の奥村康・特任教授が登場し、「温泉は免疫力を上げます」などと語り出す。
さらにナレーションで「忙しい現代社会でも手軽に免疫力を高める食べ物がある」として「それがR-1と名前がついている乳酸菌です」と強引にこの食品についてのPRめいた説明が登場する。
しかも佐賀県有田町などでR-1が入ったヨーグルトを住民に飲んでもらったら風邪やインフルエンザの罹患率が下がったなどの実験データがグラフで紹介される。「R-1乳酸菌を取っておくと免疫の下りが少ない」と奥村特任教授が専門家としてお墨付きを与える場面も出てくる。
このあたりの場面が、いかにも「ショッピング番組」風で宣伝臭がとても強いのだ。
「R-1の入ったヨーグルト」と言えば、株式会社・明治の「R-1乳酸菌」の赤いパッケージを思い浮かべる人は少なくないだろう。
実際、日本国内で商品化されているものは明治の製品しか存在しない。
この番組では商品名は伏せていたものの、事実上、明治の商品を露骨に宣伝する場面が不自然な形で挿入された。
この番組はIBC岩手放送の番組審議会でも「問題」になった。
番組審議会、通称「番審」は、それぞれの放送局に設置された外部有識者によるお目付機関であり、放送法で設置が義務づけられている。
ただ実態はかなり形骸化していて、どの局でも「番審」は通常月に1度、局の側が指定した番組を視聴してもらって「ご意見」を拝聴するというスタイルだ。ところが、この番組については番組審議委員の一人がたまたま放送を見ていてこの番組が対象になった。15年11月のことだ。
審議会の議事録を読むと、委員たちが「あざとい」「視聴者をバカにしている」などと次々に違和感を表明している。通常は「ガス抜き」で終わることが多い番組審議会の中ではきわめてまれな出来事でこれほど紛糾した番審の議事録は読んだことがない。
番組審議会では、外部の委員の意見に対しては局の責任者が出席して説明することになっている。
その中で、IBC岩手放送は以下のように説明した。
「番組はR-1乳酸菌の情報を取り込み、(明治から)タイアップ料金をいただくことで成り立ちました」
「しかし、(明治の)スポンサー提供表示はしない。それを(明治も)理解しています」
「(番組で用いられた)素材も、メーカー(=明治)から提供いただいたそのものです」
つまりIBC岩手放送は、明治から「タイアップ料金」を受け取りながら、番組提供などとは表示せず、しかも映像素材も明治からもらって番組の中に使用していた。
ネットニュースのサイトなどで問題になった「ステマ」=ステルス・マーケティングをテレビでもやっていたとテレビ局が告白したのだ。
実態はコマーシャルなのに通常の番組のように見せかける。
これはやってはいけないことだ。
番組放送のルールである「放送法」では、12条にこう規定されている。
第十二条 放送事業者は、対価を得て広告放送を行う場合には、その放送を受信する者がその放送が広告放送であることを明らかに識別することができるようにしなければならない。
要するに、放送法は「ステマ」は法律違反だと明確に宣言している。
問題の番組は、放送法に違反する疑いがある。
岩手放送側は、番組審議会で以下のように弁明している。
・番組は、岩手放送の営業と番組を下請けした東京の制作会社、広告代理店、明治の宣伝担当者との間の「コミュニケーション」で成立した。
・CM枠ではなく、番組内でR-1の情報が盛り込まれることを条件に、明治が番組に「料金」を出す。
・番組内で流れる「提供」の会社の中には明治を入れない「ノンクレジットタイアップ方式」を取った。
・番組に登場する医師(=奥村康・順天堂大学特任教授)やデータは明治が提供したそのものを使った。
番組内のR-1に関連する部分は事実上、明治の広告なのに、それを視聴者に隠して放送していたことになる。
視聴者を裏切る、許されない行為であることは明確だ。
では、「ステマ」は岩手放送で発覚したものだけなのか。他の局でも存在するのか?
「週刊新潮」が調べていくと、岩手放送と同様に不自然な形で「Rー1乳酸菌」の効果をPRする宣伝臭の強い場面が挿入された番組がキー局でも見つかったという。筆者もそのすべてを視聴したが、程度の差こそあっても番組の流れが「不自然」だったり、「唐突感」や「違和感」がある形で「R-1乳酸菌」や、他の明治の製品で使われる「PA-3乳酸菌」「LG21乳酸菌」の効果を強調するものばかりだった。
以下、疑惑の番組群だ。
「30XX年まで生き残れ 衝撃!世界のマル秘健康法SP」(TBS)
「あなたの体の悩みを2週間でスッキリ!!」(テレビ朝日)
「ソレダメ!~新常識満載!食生活改善SP」(テレビ東京)
「駆け込みドクター」(TBS)
「ヒデ&ジュニアのニッポン超安全サミット」(フジテレビ)
「FOOT×BRAIN」(テレビ東京)
「つなげリオへ!噂にアタックNO.1」(フジテレビ)
「直撃!コロシアム!!ズバッとTV」(TBS)
「プロから学ぶ生活術ダメ出し!アドバイザー」(テレビ朝日)
キー局では日本テレビをのぞく全ての局で放送されている。
岩手放送と同様、R-1乳酸菌の免疫力を強調し、風邪やインフルエンザ予防に効果があるなどの説明がなされているが、番組内で「明治」の名前はまったく出てこない。赤い容器にボカシがかけられていたりするが、飲んだ経験がある視聴者なら明治の製品だと判断できる程度の隠し方をしている。
それぞれの番組内の「R-1乳酸菌」の扱い方は個別に検証してみるしかないが、「ステマ疑惑」がこう広がるとそれぞれの放送局だけで対応して済む問題ではなくなってくる。
むしろ、各民放局が加盟している日本民間放送連盟(民放連)、さらには番組制作会社も関係しているから番組製作会社の団体であるATP(全日本テレビ番組製作社連盟)、さらに番組放送の自律的なお目付機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)が徹底調査する必要がある。
インターネットの急拡大で広告収入が相対的に減りつつあるテレビで今回の疑惑が浮上した背景には、多少ルール違反してでもスポンサー側にサービスしなければ、という焦りがあったのかもしれない。
ただ、実態としてCMのようなものを番組に紛れ込ませるのは「ステマ」と非難されても仕方ない。
何度も言うが、これは視聴者を冒涜する行為だ。
テレビ局側には徹底した調査の実施と視聴者が納得いくような説明を求めたい。
情報源:
テレビが「ステマ手法」! 視聴者への裏切りでは?
ジュンク堂書店池袋本店横の「東(あずま)通り」を入って約5分。
すごい若く綺麗な女性が集まる「天狼院書店」がある。
たった15坪の書店なのに、「本屋にこたつがある!?」と話題になり、開店わずか3年で153件のマスメディアに取り上げられた。
なかでも、店主の三浦崇典氏は『AERA』の「現代の肖像」にも登場した。ただ、その起業のきっかけが、1冊の本だったというから驚きだ。
その1冊とは、稲垣篤子著『1坪の奇跡』。
たった1坪、「羊羹」と「もなか」の2品で年商3億円。吉祥寺ダイヤ街で40年以上行列が途絶えない奇跡の店があるという。
どんなお店なのだろうか?三浦氏に語ってもらった。
僕が行列に並んだ理由
三浦崇典(Takanori Miura)
数年前の冬、僕は思い立って吉祥寺「小(お)ざさ」の行列に並ぶことにした。池袋から始発に乗り込み、吉祥寺駅に着き、ダイヤ街というアーケード街に向かうと、すでに行列ができていた。
行列には、常連も多かったが、日本全国から来る人もいるという。
僕のように、都内なら始発でなんとか間に合うが、地方の人はそうはいかない。前日入りして、近くのホテルに泊まって並ぶ人もいるという。
行列の先にあるのは、たった1坪の和菓子屋である。
僕らが狙うのは、1日150本限定の「幻の羊羹」だった。
この「幻の羊羹」を求める行列が、40年以上、途切れたことがないという。
このときは、編集者と装丁デザイナーの友人と一緒に並んだのだが、僕らの手には1冊の本が握られていた。
それが、吉祥寺「小ざさ」代表稲垣篤子氏の著書『1坪の奇跡』だった。
つまり、「幻の羊羹」を待つ行列に並びながら『1坪の奇跡』を読もうと僕らは考えたのだ。
僕は2013年9月26日に東京池袋に天狼院書店の1店舗目「東京天狼院」をオープンさせることになるのだが、その当時は、まだ天狼院書店は存在していない。
行列の中で、吉祥寺「小ざさ」のビジネスを研究しようと僕らはしたのだ。
寒い中、朝早くに多くの人がこの行列に並んでいた。この行列の正体は、いったい、何なのだろう。
世界に冠たる「小ざさモデル」
あのティファニーの1平方メートルあたりの売上を、アップルストアが抜いたという記事を見たことがあるが、試しに、1坪3億円売り上げる小ざさと比べるとどうなるだろうと計算したことがあった。
それで出てきた数値が驚異的だった。
ティファニーを凌いだアップルストア。吉祥寺「小ざさ」は、なんと、1平方メートルあたり、そのアップルストアの実に20倍ほど売り上げていることがわかった。
もしかして、吉祥寺「小ざさ」こそが、世界最強のビジネスなのかもしれないと僕は考えた。
しかし、どうも、数値が合わないのだ。
「幻の羊羹」は、1本600円ほどでしかなく、1日限定150本である。
と、すれば、1日に羊羹の売上は9万円程度、月に270万円、年間でも3200万円ほどでしかない。3億円には到底至らないのである。年商の1割程度でしかない。
吉祥寺「小ざさ」の商品は、幻の「羊羹」と「もなか」の2品しかない。
そうだとすれば、簡単な引き算で、「もなか」が売上の9割を占めていることになる。実に、「もなか」で年商2億7000万円以上である。
「マーケティング」的にみれば、吉祥寺「小ざさ」のモデルは、こういうことになるのではないだろうか。
幻の羊羹は、「ブランディング」のための商材である。
現に幻の羊羹は、そのずっしりとした重みからその形から、金の延べ棒のように感じられ、到底600円の商品とは思えない。その「幻」という概念が、本来の価値以上のものをもたらしている。それは、羊羹のブランディングが成功した現れと見ることもできる。
そして、その「ブランディング」の成功で上昇したブランド価値を利用して、大量生産している「もなか」を売っていると見れなくもない。
いち早くネット販売も取り入れて、1坪という物理的な制限を突破しているし、店舗自体は1坪と小さいながらも、別な場所で、製造工場が存在している。
なぜ、40年も行列が途絶えないのか?
実は、極めて優秀なインターネット通販企業という側面も小ざさにはある――おそらく、吉祥寺「小ざさ」の本質を知らないマーケターなら、そんな分析結果をしたり顔で示すかもしれない。
けれども、一口、「小ざさ」の幻の羊羹を口にすれば、そんな後付のマーケティング理論など、何の意味もなさないことが明白になるはずだ。
「小ざさ」の羊羹は、圧倒的なのだ。それを口にする人を最大限に幸福にさせる「ハイパーコンテンツ」なのである。これを食べてしまえば、ビジネスモデルは、後からまるで水が合理的な山肌を流れて、川となるように、自然な流れで構築されていったに過ぎないことを思い知るだろう。
1坪で年間3億円売り上げ、40年間行列が途絶えない「小ざさ」のビジネスの秘密は、決して、そのビジネスモデルにあるわけではない。その「羊羹」と「もなか」の圧倒的な旨さに秘密があるのだ。
まるで芸術の領域にまで高めた、その創作の秘密は、『1坪の奇跡 』に詳しく描かれている。
「羊羹をつくり続けていると、感動的な喜びを味わえる瞬間があります。
炭火にかけた銅鍋で羊羹を練っているときに、ほんの一瞬、餡が紫色に輝くのです。
透明感のある、それはそれは美しい輝きで、小豆の“声”のようにも感じられます」(本書16頁より)
ヘラを銅鍋の中で動かす時に、「半紙一枚分の厚さを残す」という境地。それこそが、アップルやティファニーを凌いだ、吉祥寺「小ざさ」の強さの秘密なのだ。
今こそ、小ざさに学ぶべきもの
我々は商売において、マーケティングやビジネスモデルを優先しがちだが、実際のビジネスとは、マーケティングだけでは成り立たない。
マーケティングを極めようと思えば、やはり、コンテンツ主義に帰結すべきなのではないだろうか。
特に今年は映画界でそれが証明されている。
前評判のあまり芳しくなかった庵野秀明総監督の『シン・ゴジラ』は、圧倒的なコンテンツ力で、SNSやオウンドメディアを中心に拡散されて大ヒットした。
その勢いが衰えない時期に公開された新海誠監督の『君の名は。』は、興行収入が200億円を突破した。これも元々は東宝にとってのエースではなかったので、封切り直後は、上映館数も多くはなかった。
けれども、コンテンツの力によって、口コミで上映館数が広がり、大ヒットとなった。
SNSやオウンドメディアが強い、つまりは、個々人の消費者が大きな発言権を持つようになった現代こそ、我々は、吉祥寺「小ざさ」に多くを学ぶべきなのかもしれない。
逆説的に言うと、我々、サービスや商品の提供者は、コンテンツの制作・製造に集中し、良いコンテンツさせ生み出せば、消費者がヒットさせてくれるという、創る人優位の時代に突入したと言えるかもしれない。
もし、ビジネスで何かに迷ったら、始発で吉祥寺に出かけて、ダイヤ街の行列に並んでみるのもいいだろう。
40年以上途絶えたことのない行列に並ぶとき、そして、幻の羊羹を口にしたとき、きっとあなたはマーケティングの本質を理解することだろう。
僕も天狼院書店の経営者として、そして、実際に本をつくる人間として、改めて、コンテンツ主義を実践して行こうと考えている。
ビジネスモデルは、結果論にすぎない。学術のためではなく、実際にビジネスをするのなら、コンテンツ主義こそが、最良のマーケティングだろうと思うのだ。
��終わり)
情報源:
吉祥寺「小ざさ」は世界最強のビジネスである!1坪2品で3億円を売り上げ、40年間行列を途絶えさせない秘密|1坪の奇跡|ダイヤモンド・オンライン
「売り方」にこだわっていた経営者が「価値を売る」ことに気づいた時、「モノの見方」が変わる。そこから企業が変わり始める――。行き詰まりを感じる経営者の視点が変わるきっかけ、企業再生のきっかけとなる「スイッチ」の見つけ方を、経営コンサルティングのプロフェッショナル集団・カート・サーモンの河合拓氏が解説する第2回。今回はもはや“衰退産業”とも言われる「百貨店復活のスイッチ」だ。
今、我々の生活の様々なところにITが入っている。企業は莫大な投資を行いながらIT化を進めているが、それらが効果的に事業価値を上げたという話は、私の知る限りほんの数件に過ぎない。多くの企業ではIT化は過剰投資、あるいは無駄な投資になっている。
最近は「IT化」という言葉が少なくなり、「デジタイゼーション」という言葉の方を聞くようになってきた。「IT化」というのは読んで字のごとく、今まで人間がやってきたことがITに置き換わる、という意味である。だから、その効用性は、自動化、省力化、正確性など生産性の向上となる。
これに対して、「デジタイゼーション」というのは、ITを活用して、これまでなしえなかったような新しい付加価値を新たに創造することをいう。今百貨店業界で最もホットトピックである「オムニチャネル」に焦点をあて百貨店復活のヒントを提示したい。
間違いだらけの「オムニチャネル」
オムニチャネルというのは、顧客が「いつでも、どこでも、どのようにしても」商品を購買できるよう様々な技術を導入し、組み合わせ、顧客にとって高い価値を実現することをいう。
例えば、朝起きるとネスプレッソのカプセル在庫がきれていた。その場でパソコンで買うと翌日自宅に届く。オフィスから帰宅し、夜自宅でホッコリしているときに先週末に店舗で見た洋服をスマホで買う(いつでも)。女性の一人暮らしだと宅急便配達が自宅まで来るのがなんとなく嫌なため、通勤途中にあるコンビニで商品を受け取れる(どこでも)。あるいは、店頭で商品を見ていたらSサイズが切れていたため、スマホで在庫を探すと隣の店にあったので、そこからSサイズの商品が配送される(どのようにしても)、などだ。
顧客は、リアルの店、ECを通して、場所、時間、方法を全く気にせず好きな商品を好きなように買うことができる。「オムニチャネル」という概念は瞬く間に業界に広がった。
さて、そもそも、オムニチャネルという概念は米国からきたものだ。そして、米国ではGMS などのスーパーで発達したものである。確かに、米国でもメイシーズなど百貨店でオムニチャネルが進化した事例もあるが、米国の場合、まず、広大な土地を広くカバーするために様々な物流拠点が存在し商品を全国に届けている。
また、米国では多くの消費者がスマホやインターネットを積極的に活用しており、全世代にわたってITリテラシーも日本よりはるかに高く需要も高い。一方、日本の百貨店などは、地方に行けば60歳以上の顧客が中心で、まだまだ購買の中心は店頭での接客を通した買い物だ。
加えて、百貨店のビジネスモデルを両国で比較すれば、米国では百貨店の「買い取り取引」が多く、商品は百貨店に帰属するため、百貨店が自由に商品を各物流拠点に動かすことができる。だが、日本では委託消化と呼ばれ、百貨店は売れ残ったら返品する取引形態が一般的で、百貨店が自由に商品をあちこちに送り回すことが難しいなど、日本と事情が異なっている。
一口に百貨店と言っても1店舗で数千億の店から
「空き部屋」のような店まで様々
日本の百貨店業態は特殊だ。まず、日本国内だけで百貨店が250も存在し、駅前などの一等地にある百貨店以外の、特に、地方百貨店の多くは瀕死の重傷を負っている。元気が良いのは「新宿の」伊勢丹、「二子玉川の」高島屋、「梅田の」阪急など、好立地商圏で顧客をがっちりつかみ存在感を出している店舗のみ。百貨店の中でも圧倒的多数を占める地方百貨店の一部には、インバウンド需要(外国人の来店)という「神風」で一時的に持ち直しているところもあるが、業界では「量販家電」か「ユニクロ」のいずれかを入れるしか道はないとまでいう人もいる。
このように、百貨店といっても好立地に館(やかた)構え、1店舗で数千億円も売るモンスターのような店もあれば、ほとんどテナントも入っていない空き部屋のような館もある。百貨店と行っても全く違うのだ。
私も、ある金融機関から東北の地方百貨店再生の仕事を受けたとき、東北に出張し、店舗を見に行ったことがある。その百貨店は繁華街の好立地にそびえ立っていたが店内は閑古鳥が鳴いていた。致命的だったのは、その百貨店の真正面に、もう一つの高級百貨店が隣接し「顧客の奪い合い」になっていたことだ。そもそも、その繁華街に人がいない。
タクシーで5分ほど走ったら、巨大なショッピングセンターが広大な敷地に店を構えていた。ユニクロ、GAP、ZARAなど低価格の衣料品やスターバックス、ABCマートなど、東京でも馴染みの店舗が店を構え、隣にはボーリング場まであった。家族連れも車で来るならこちらに来るだろうということは想像に難くない。
その窮地に陥った百貨店は「再生」に向けて従業員の教育や芸能人のイベントなどを企画していたが、そのレベルの改善を繰り返しても復活しないことは明らかだった。残念だったが、その再生の仕事はお断りしたのだが、この百貨店のケースは特殊ではない。特に業績が悪化している地方百貨店においてはどこも似たような状況に陥っている。こうなった店舗はすでに存在意義を見いだすのは難しい。
こうした中、日本の百貨店は、数少ない優良店舗の成長戦略にかけてゆくことになるのだが、売上増加を目指す時、「顧客のLTV (Life Time Value生涯価値・顧客が一生にいくらお金を落としてくれるか)の向上」を狙うのか、「顧客数の増加」を狙うのか、非常に重要な戦略の岐路に立たされている。
百貨店復活のスイッチ(1)
デジタイゼーション戦略での“全員外商化”
日本という国の特殊事情をみたとき、百貨店というのは、エリア特性と密接な関係がある。分かりやすく言えば、百貨店というのは「街のシンボル」であり「街の文化」なのだ。
例えば、九州のある名門百貨店の支援に行ったときだ。その百貨店は全国に一店舗しか存在しないのだが、地場の富裕層をがっちりつかみ、近くにショッピングセンターができても顧客を取られていなかった。その街では「結婚やお歳暮時など、特別な贈り物を贈るときは、その百貨店で買ったものを贈るのが常識」という「街の文化」をつくり出すことに成功していた。まさに、長年の事業が生み出した「ブランド力」である。
しかし、その百貨店でさえ、流行に乗ってインターネットショッピングサイトを始めたのだがうまくゆかない。理由を分析すると、そもそも、その百貨店を支えている顧客が、シニア層で、特に高額品においては、まだパソコンやスマホを使って買い物をしていなかったということ。また、その地域の外に出れば、別の百貨店が商圏を陣取っていて顧客を離さないということだった。
そこで、もっと遠くの、例えば、関西や関東をめがけて地方の辛子明太子のような名産品をネット販売してはというトライアルをしたのだが、そうなると、今度は百貨店の供給業者が、すでに直接百貨店を飛ばして「楽天」などに出店していて、九州の辛子蓮根や明太子はさっぱり売れない。
そんなとき、「インターネット販売の戦略を考えてください」といわれて、私が答えたのは「インターネットで遠くの顧客に販売しても売れません。自分のリアル店舗の周りの顧客をもっと大事にしてください」だったのである。
この九州の百貨店が目指すべきは、「リアル店舗がつかんでいる商圏」に対して、より既存顧客のLTV (Life Time Value生涯価値・顧客が一生にいくらお金を落としてくれるか)を上げることだったのだ。自らが陣取る商圏外の顧客に、自分の百貨店の「のし紙」を有り難がる人がいるはずだ、という前提で、インターネット販売を始めても結果は目に見えている。
そもそも、百貨店に来る顧客の購買心理を深く知れば、百貨店が他の小売業に対し最も競争力を持っているところは、高額な商品を、じっくり、安心、安全なサービスで販売する技術力とブランド力だということがわかるはずだ。
そして、その究極の販売手法は「外商」である。「外商」というのは、もともと、百貨店の外に出向き、特別な顧客を訪問し、特別な接客で商品を売る手厚い営業手法であるが、最近では特別ゲストルームのようなところに顧客を呼んで販売するやり方もある。ある老舗百貨店の外商経験者に話を聞いたところ、「昔は個人で現金で1億を払って壺や絵を買う人もいた」というほどだ。
こうした独自の販売手法は、小売業の中でも百貨店しかない。私は、デジタルを使い、ローコストで百貨店の顧客全員に特別な体験をしてもらう「顧客の全員外商化戦略」こそ、百貨店がスーパーや書店などと差別化し得る百貨店復活の「スイッチ」だと思う。
例えば、冒頭にあげた、ネスプレッソのカプセルなどは在庫がなくなれば自動的に自宅まで届けてほしい、お気に入りのブランドの新商品が入荷したら、購買履歴などを参照してそのブランドのファンに入荷の予定を知らせる。あるいは、取り置きをしてくれるなどのサービスを行う。店頭ではITを使った丁寧なコーディネートや入荷していない商品の説明を行うなど、外商で実現している「売り方」のサービスを、百貨店に来る顧客全員にローコストで実施する。
百貨店復活のスイッチ(2)
��Cとリアル店舗での“相互送客”
次は、全く異なるケースを紹介しよう。
「うちは、オムニチャネルという言葉は社内で使わない。徹底して顧客が求めていることを繰り返して改善していった結果、オムニチャネルに近づいた」
オムニチャネルをうまく活用しているある百貨店の経営者が語った言葉だ。
その百貨店は、商品開発の企画機能を本社から売場に移し、顧客と一緒に新商品を作るという斬新なビジネスモデルを先駆けて打ち出し、日本の百貨店では珍しくプライベートブランドで成長している。
彼らの商品戦略の仕事に携わったとき、経営トップから言われた言葉は、「世界で最も良い商品を作ってほしい」だった。「流通しているナショナルブランドの真似をして、価格を下げて売るためのプライベートブランドであればやらない」とはっきり言われたことを思い出す。そこで、私は、世界中の工場とマーケットを回り、日本で流通している商品のレベルを超えた、まさに「規格外」の商品を開発した。調査した顧客の数は数万人を超え、訪問した国や地域は10を超える。コンサルティングのプロジェクトとしては異例のものだった。
この百貨店は、そのヒット商品を全国販売するためEC拡販の検討を始めていた。既存顧客でなく新規顧客を狙っているのだが、まっとうな戦略だ。完成度が高い商品を自前の店舗で独占的に販売することができきるのであれば、既存の顧客のLTVをあげるより、まだ、その商品を知らない人に認知を高め、その商品が持つ良さを実感してもらう方が理にかなっている。このケースの場合、百貨店復活のスイッチは、商品を軸としたマーケット拡大、つまり「顧客数の増加」となる。
このように、委託取引を中心とした百貨店のオムニチャネル戦略は既存顧客のLTV向上による「顧客の総外商化」を、魅力あるプライベートブランドを中心とした百貨店のオムニチャネル戦略はECとリアル店舗を絡めた市場拡大による「顧客数の増加」を狙うことで、百貨店のデジタイゼーション戦略は整理できる。
「顧客データ」を主軸か、「商品データ」を主軸か
デジタイゼーションが進んだ世の中で、小売り事業で勝つためのコツは二つしかない。それは「顧客」を主軸に戦略を展開するか、「商品」を主軸に戦略を展開するかのいずれかだ。オムニチャネル化が進めば、アパレル業界の工場、商社、アパレル、百貨店というバリューチェーン内で、「顧客データ」と「商品データ」の争奪戦が始まる。
データというのは、過去から今に至る長い時間軸(縦のデータ)、複数の競合企業、類似企業のデータの集積(横のデータ)のかけ算で活用価値が大きく変わってくる。この面積が最も大きなデータを持っている企業が、業界全体をフィクサーのように動かし、業界の中で神の領域に近づくことができる。いわゆる「ビッグデータ解析」という考え方だ。
「顧客」を主軸に戦略を展開するわかりやすい事例は、アマゾンや楽天である。彼らは、自分たちで自主企画商品は作っていないが、膨大な「顧客のデータベース」を持ち、様々な技術を駆使してクロスセル(この商品がよければ、あちらの商品もいかがですかと推薦する技術)やアップセル(ある商品を買ったら、さらにその上位版の商品も推薦する技術)を誘引し、顧客をがっちり掴んでいる。「顧客の全員外商化」戦略は、「顧客データベース」を集積し、顧客の嗜好、購買行動を百貨店がしっかり分析することが重要だ。
これに対して、「商品」を主軸に戦略を展開するわかりやすい事例では、ユニクロのヒートテック、ブラトップなどだろう。最近では、セブン&アイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」、丸井の「らくちんシリーズ」もプライベートブランドの成功事例である。魅力ある商品を主軸に全国にECを使って展開する戦略は、「商品データベース」をしっかり活用し、在庫場所の管理や決済、配送スケジュールなど顧客にとって最適な組み合わせを実現することが重要だ。
つまり、百貨店のオムニチャネルの戦略とは、「『顧客』を主軸にしてLTVの向上を狙う」のか、「『商品』を主軸にして顧客の増加を狙う」のか、いずれのポジションを取るか判断を行うことなのである。
私達カート・サーモンには、米国本社に数多くのオムニチャネル導入を手がけたコンサルタントやIT責任者が山のようにおり、彼らと毎日のようにテレビ電話会議で議論を尽くしている。私は、オムニチャネルの本質をつかむべく、彼らに「結局オムニチャネルとは何なのか」とよく聞くのだが、彼らが答えることは一つしかない。
「オムニチャネルの目的は3つしかない。顧客が、When (いつでも)、Where (どこでも)、How (どうやってでも)で買い物ができことを実現することであり、これらの中でニーズがあることを実現すれば良い。だから、その具体的戦略は業態や状況ごとに変わって当たり前だ」というものだ。
だから、米国でこういうことが流行っているという“形”の議論に惑わされず、自らが顧客に提供すべき価値とは何か、それは、When、Where、Howで何が実現できるのか、という本質論から戦略を組み立てるべきなのだ。
ユニクロを超えるのは百貨店の使命
私は、メディアの人に「日本で勝っているファッションブランドはどこですか」とよく聞かれるのだが、そのたびに「ユニクロです」と答えるといやな顔をされてしまう。我々はユニクロの話はそろそろ聞き飽きている。デフレ時代の到来と言われ、百貨店衰退論が日本を席巻し、百貨店は無くなるという極論さえまかり通った時があったが、百貨店といっても、世界でも有数の優良店舗もあれば、ショッピングセンターに顧客を奪われ苦しんでいる地方百貨店も存在する。
私は、その両者と仕事をしているが、特に前者においては、その高度なノウハウや有能な人材に支えられた営業力は世界に類を見ない。また、彼らはM&Aや業態転換を繰り返し、次々と斬新な戦略を実行しようとしている。百貨店という業態は、経済が衰退した日本で、高額商品をしっかり販売することができる唯一の企業なのだ。
国民はアベノミクスに熱狂的だが、日銀でお札を増産すればお金の価値が下がって物価が上がる、などという、分かったような、分からないような経済政策に期待するより、百貨店業界こそがしっかり正しいスイッチを押すことで、デフレ一色に染められた市場の彩りを鮮やかにすることができるだろう。
過去、日本のアパレル業界は、SPA化、サプライチェーン、QR (Quick response)、アウトソーシングなど、米国から輸入された改革手法を「間違った形」で導入し、効率化を追い求めてきた結果、顧客が感じる体験価値をどんどんそぎ落としてきた。オムニチャネルではその二の舞は踏んで欲しくない。
��カート・サーモン・ユーエス・インク日本支社 パートナー 河合 拓)
カート・サーモン・ユーエスインク日本支社パートナー/繊維商社にて10年の海外営業の後、経営コンサルタントに転身。ターンアラウンドマネージャ(企業・事業再生)として数多くのアパレル、流通チェーン、百貨店などにハンズオンで入り込み、経営立て直し、新規事業立ち上げを成功させた。著書『ブランドで競争する技術』(ダイヤモンド社)は中国語に翻訳され台湾でも発売されている。
情報源:
百貨店の「ネット販売」はなぜ失敗するのか 「オムニチャネル」は百貨店の救世主?|経営眼を鍛えるビジネス発想・売れないが売れるに変わるスイッチはどこにあるか?|ダイヤモンド・オンライン
鈴木貴博 [百年コンサルティング代表] 【第45回】 2016年12月9日
会見で頭を下げるディー・エヌ・エーの(写真奥から)南場智子取締役会長、守安功代表取締役社長兼CEO、小林賢治経営企画本部長 Photo:Rodrigo Reyes Marin/AFLO
「WELQ」炎上の背景に見える
メディアが存亡をかける大抗争
ここ数年、DeNA(ディー・エヌ・エー)の成長を支えてきた「発明」と言われるキュレーションサイトが炎上した。きっかけは医療系サイトの「WELQ」(ウェルク)で、医学的な根拠のない記事が無断転用されていたことだ。それが発端で同メディアの記事作成の手法が取り沙汰され、大問題に発展。DeNAは「WELQ」「MERY」など10のキュレーションサイトで記事公開を中止した。
表面的には「不確かな情報やパクリ情報を掲載するメディアの運営の見直し」という問題に見えるこの騒動だが、実はダイヤモンド・オンラインやその競合のウェブメディア、週刊誌や大新聞やテレビなどの既存メディアが存亡をかける大抗争が、その裏に存在している。
「メディアの闇が表に出た」ことが今回の騒動の真の意味であり、このことをきっかけに、水面下のメディア間の大抗争が表面化し、キュレーションサイトを徹底的に殲滅させたいという方向に業界が動き出しそうな気配である。今回のコラムはこの「闇」を説明したい。
キュレーションメディアの闇とは何か。それは既存のメディアよりもお金が稼げる新しいビジネスモデルが発明されたことにある。そしてそれによって、既存のジャーナリストたち、既存のメディアたちが「立ちゆかなくなるのでは」と危惧されるのが真の問題だ。
具体的に説明しよう。ダイヤモンド・オンラインのような既存のウェブメディアの「記事」のビジネスモデルを説明すると、次のようになる。
��1)プロのライターが編集者と相談しながら書きたいテーマを発見し、取材し、記事を書く。
��2)運営会社はライターに原稿料を支払った上でメディアに掲載する。
��3)掲載した記事が読者の興味をひいた場合、PV(ページビュー/閲覧数)がたくさん集まる。
��4)メディアは多くの読者に支持されることによってブランド価値を高め、スポンサーの広告料収入で運営費や利益を賄う。
キュレーションメディアを
勢いづかせた「記事量産」の大発明
これが牧歌的な時代のメディアとライターによるビジネスモデルだった。そこにこのビジネスモデルを壊す大発明が登場する。それがキュレーションメディアだ。
彼らが発見したビジネスモデルは、既存のメディアとこう違う。
��1)運営会社がお金になるテーマやワードを選定し、それぞれについてインターネット上の情報をまとめ、記事の構成をつくる。プロのライターの20分の1のコストでそれをきちんとした記事に仕上げてくれる一般ライターを、クラウドで募集する。
��2)ライターは与えられたまとめ記事をリライトし、独自の体裁の記事にして納品し、メディアがそれを掲載する。
��3)もともとお金になるテーマやワードを基にした記事に、SEO技術を駆使してさらにアクセスを集めることで、検索結果の上位にランクさせる。
��4)注目ワードを使った記事が検索上位にランクされ、多大なアクセスが集まることを背景に、スポンサーから多大な広告料収入を得て、運営費と莫大な利益を賄う。
ちょっとわかりにくいかもしれないので具体例を出すと、閉鎖される前のDeNAのWELQの場合、「ヘルニア」というワードでグーグル検索をすると、2つの記事が他のメディアや医療サイトを押しのけて上位に登場していた。「ヘルニアの症状とはこうだ」という記事と「ヘルニアがストレッチで改善する」という記事だ(注:筆者が「ヘルニアはストレッチで改善する」と言っているわけではない。念のため)。
ここでメディアにとってお金になるのは、「ヘルニア」というキーワードだ。グーグルで「ヘルニア」を検索するのはヘルニアで困っている人が大半であり、しかもその人数は多い。そして、ヘルニア患者を相手に商売をしようという人たちも多く、ヘルニアのキーワード検索で記事が上位にくるメディアに高い広告費を支払ってでも広告を掲載したいと思う。
キュレーションサイトというビジネスは、ここに目をつけたのだ。先ほどの既存メディアのビジネスモデルと、キュレーションサイトのビジネスモデルの差分を整理してみよう。
��A)運営側は最初から高く売れるテーマ、ワードだけに目をつけて、それに関する記事を書かせる。
��B)記事の中身の基本構成は、インターネット上のサイト記事をまとめることで叩き台をつくる。
��C) 記事を書くライターをクラウドで集める。このことで低コスト(20分の1)で大量の記事を集めることができる。
��D)SEO技術を駆使してグーグル検索での記事の表示ランクを徹底的に上げる。
��E)テーマやワードの高い集客力を武器に、高額の広告料を手に入れる。
キュレーションメディアが力を入れるポイントは、このように既存メディアと大きく違うのだ。そして問題なのは、このやり方の方が、楽にたくさんのお金を儲けることができることだ。
筆者のヒット記事で検証
「こうすれば誰でも記事をつくれる」
「そんなことを言っても、記事の面白さでは既存メディアに勝てないだろう」と思う人も多いかもしれないが、そうとも言えないところがこのビジネスモデルの優れたところだ。筆者の記事をパクるケースでそれを説明しよう。
先週、15万PVを稼いだ筆者の連載記事「ジーユーが兄貴分のユニクロをたぶん追い抜く理由」だが、もし私がキュレーションメディアの運営側で「ジーユー」や「ユニクロ」がキーワードとして売れると考え、以下のような執筆マニュアルを作成したとしよう。
「発注書:『ジーユーがユニクロを抜く』という記事を書いてください。基本構成は以下のとおり」
��1)ユニクロの直近の業績が頭打ち(※ここに2ちゃんねるへのリンクを貼ってあるとお考えください)
��2)このままではH&MやZARAを抜くことは難しい(※ここに個人ブログへのリンクが貼ってあるとお考えください)
��3)弟分のジーユーの調子がいい。ジーユーとユニクロの違いはハイファッション(※ここに東洋経済オンラインへのリンクが貼ってあるとお考えください)
��4)H&MやZARAのようなハイファッションの方が世界ランクでは上(※ここにユニクロのIRページへのリンクが貼ってあるとお考えください)
「『だからジーユーはユニクロを抜くのでは』という結論で締めてください。上記リンクからコピペしてもいいですが、表現はオリジナルな感じでリライトしてください。以上」
どうだろう。ここまでマニュアル化してくれたら、筆者ではないライターでも筆者と同じような記事が書けるのではないか。
著作権法上の違法性はないが
これではメディアに未来はない
ところがこのやり方には、「著作権法上は違法ではない」という問題がある。というか筆者、つまり鈴木貴博だって、やろうと思えばこのやり方でジーユーの記事が書けるというグレーゾーンの問題もある。むしろこういう方法で書かせていただければ取材するコストがかからないので、筆者だって助かる。
実際は筆者の場合、ジーユーとユニクロの店舗をまわって商品ラインの違いについてきちんと調べている。前述の記事中に出てくる「MA-1」というフライトジャケットについても、同記事には書いていないが、ジーユーのメンズの方がさらにファッション感が凄く、「これは来シーズンは着られないだろうな」という斬新なMA-1ジャケットが売り場を占めている。「おそらく年明けには、これらの商品は見切り価格で安売りされるはず」というところまでわかった上で、ジーユーのビジネスモデルを論じている。
もう1つ、記事には書かなかったエピソードを紹介すると、ジーユーの柚木社長は独特のファッションセンスを持っている。本人のいないところでユニクロの社員からよくからかわれているくらいだ。その微妙なセンスが今のジーユーの快進撃につながっていることを考えると、ユニクロはジーユーの商品を真似できない。つまり、柚木社長がユニクロに復帰しない限りは、ユニクロがジーユーのビジネスモデルを取り込むのは難しい。そこまでわかって筆者は記事を書いている。
でも、ファッション関係のキュレーションサイトが私の記事に目をつけて、「似たような記事を書いてほしい」とライターに発注すれば、実際に1000円くらいの原稿料で似たような記事ができてしまう。
そして、その掲載先がダイヤモンド・オンラインのような伝統的なメディアではなく、高いIT力を持った企業のメディアであった場合、SEO能力の違いが出て、IT企業のキュレーションメディアの記事の方がPVを集めることができるだろう。結果、私の記事よりも読まれることになる。
ここが既存のメディアや伝統を重んじるジャーナリストには許せない、キュレーションメディアの「闇」である。取材もしない「後追い記事」の方が読まれる、その上その内容に責任を負わないメディアの方が儲かる――。そんなことがまかり通るようであればメディアに未来はない、という怒りだ。
しかし、これまでは著作権法上、手の打ちようがなかった。ところが「医療」という法的に問題のある分野でDeNAが「ヘタを打った」。さらにキュレーションの過程で写真画像という、著作権を主張しやすいものがパクられている事例が多数あることを問題にすることができ、キュレーション記事の多くを閉鎖に持って行くことが、今回初めて達成できた。
実際、キュレーションサイトの記事公開中止の動きは、他社へも波及している。大手ではヤフーの「TRILL」、サイバーエージェントの「Spotlight」、リクルートの「ギャザリー」などで、DeNAと同様の問題を抱えている可能性がある一部の記事を削除する対応が行われている。これらのサイトが問題にしたのが、画像のパクリである。
既存メディアはキュレーション
メディアに打ち勝てるのか?
ただ、まだこの問題の本丸はほぼ無傷のままである。たとえば、日本企業のようにはコンプライアンスを気にしない、外国資本のキュレーションメディア最大手は、サイトを閉鎖する動きを見せていない。
この企業、「今後は原著作権者の権利に配慮する」という新方針を表明しているが、グレーゾーンはある。一般論として、キュレーションメディアに対して著作権のクレームを行なうと、「あなたが原著作権者であることを証明しろ」と言ってくることが多い。配慮はすると言うだけで、実際にクレームをつけるとものすごい手間がかかる状況をつくって、勝ち逃げしようとしているように見えるケースもある。今回、日本の大手IT企業が軒並みキュレーションサイトの自粛に走った結果、最大手がさらに焼け太るのではないかということが危惧される。
今回の騒動で、既存メディアはキュレーションメディアを殲滅できるのか。それとも日本のIT企業だけを討ち取った結果、最終的に外国資本にメディアの未来を支配されるのか。メディアに関わる筆者個人としては「最悪な未来が待っていないこと」を祈るのみである。
情報源:
キュレーションサイトの「闇」に既存メディアは打ち勝てるか|今週もナナメに考えた 鈴木貴博|ダイヤモンド・オンライン
2016/12/5 2:00日本経済新聞 電子版
特定のテーマの情報をサイト上にまとめる「キュレーションサイト」で、記事を削除する動きが相次いでいる。すでに問題となったディー・エヌ・エー(DeNA)だけでなく、リクルートホールディングスやサイバーエージェント、ヤフーも誤りや著作権侵害の疑いがある記事の公開を中止した。質よりも量を優先し、品質管理が不十分な記事が広がっていたことが明らかになってきた。
一部の記事公開を中止したサイバーエージェントのサイト「スポットライト」
一部の記事公開を中止したサイバーエージェントのサイト「スポットライト」
キュレーションサイトは外部ライターや投稿による記事を集め、多くは閲覧が無料。読者を集めるほど広告も入りやすくなる仕組みで、ここ数年急拡大した。DeNAは検索サイトで記事が上位に表示されることを優先して編集していた。
リクルートはキュレーションサイト「ギャザリー」で1日以降、全体の約4分の1にあたる1万6000件の公開をやめた。健康に関する内容が中心という。詳細な基準は明らかにしていないが、少しでも疑わしい場合が対象。記事の執筆者が取り下げを依頼したケースもある。社内の審査チームで内容を精査したうえで、再公開を目指す。
利用者数が月2000万人いるサイバーエージェントの「スポットライト」は12月1~2日にかけ、全体の数%にあたる医療や健康に関わる記事の公開を中止した。編集部が認定したライターに記事を投稿させる仕組みで、掲載前に内容を監修する体制がなかった。
DeNAの不正問題を受けてサイト内を見直したところ、記事に誤りがないと断定できない可能性が出てきた。内容の正確性や著作権侵害の有無を判断し、問題がなければ再公開する考えだ。
ヤフーは10月上旬、運営するトレンド情報サイト「トリル」ですべての独自記事を事実上、削除していた。一部記事で権利者の許諾を得ずに画像を掲載していたことが発覚。編集部のチェック体制が不十分で、その他の記事についても著作権侵害の可能性を否定できないためだ。
今のところ記事の再公開や新たな独自記事を掲載する予定はない。現在は広告主とのタイアップ記事などだけを掲載している。
DeNAのキュレーションサイトを巡っては、10月ごろから記事の信ぴょう性などを疑う指摘がネット上で相次いだ。強い批判を受け、11月29日に医療情報の「WELQ」の公開を中止し12月1日には8媒体も追加で公開をやめた。
唯一公開を続けているファッション情報の「MERY」も大半の記事を取り下げた。
情報源:
まとめサイト、記事削除広がる リクルートなど
キュレーションメディアに写真をパクられたら請求書を送ることにした
2016/12/2 著作権侵害の対策
パクリメディアの横綱DeNAが10あるキュレーションサイトのうちWELQを初めとする9サイトを一昨日非公開にした。キュレーションサイトとは写真や文章を余所からパクってまとめるサイトのこと。作品をパクられて困惑というか怒り心頭しているブロガー・イラストレーター・カメラマン・著述業の方々は数知れない。今回の騒動にはみなさぞ溜飲が下がったことだろう。
それにしてもDeNAは東証一部上場企業なんだそうだけど、パクリメディアを運営することで成り立つ企業が堂々と一部上場していていいのかね。パクリメディアとは窃盗団と同じことだ。日本社会の暗黒面をここにみたね。
無断使用にも料金請求する
ぼくはこの秋に、キュレーションサイト5つを含む8サイトにぼくのブログの写真が無断使用されているのを発見し、そのすべてに料金を請求した。
そうでないと、普通に使用料を支払ってくださっている他のクライアントに不公平になる。
2016 12 02 214131
上の日芸の写真はあろうことか2つのサイトに使われていた。日芸の写真って意外に出回っていないのかな。それにしてもこんなに多くの大小のキュレーションサイトが乱立してるとはね。
��社を除きすでに解決しているのでサイトの名は記さないが、パクったサイトには話題のDeNAのサイトもあった。その他は、ウェディング・芸能・子育てなどの自社サイトだった。
料金請求した結果、キュレーションサイト4社は3〜4回のメールのやりとりで使用料金を支払ってもらった。キュレーションサイトではない他の自社サイトはさらに反応が早く2回程度のメールの往来で使用料金を支払ってもらった。
今回はそのメールの文章を全文公開するので、作品をパクられたクリエイターの方々は参考にして、ぜひ料金請求してください。載せてあるぼくのメールは状況に合わせて自由に修正して使ってください。みなさんがどんどん料金請求をすればパクリサイト撲滅につながります。
キュレーションサイトとのメール
まずは証拠の確保
メールを送る前に証拠を確保する。
パクリ画面を「別名で保存」し、あわせてスクリーンショットをとる。 後で裁判をする可能性を考えると紙プリントしやすい「別名で保存」があったほうがよい。
念のためページのソースも保存する。Google Chromeなら、当該ページ上にポインタをおき右クリックすればページのソースが表示できる。全てを選択して、コピペしてテキストファイルにしておく。
メールその1
タイトルは「写真使用料のご請求の件」とした。
拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
貴社ウェブサイトに、私が撮影し著作権を有する写真1点(ここに無断転載された写真のURL)が無断で転載されていることを確認いたしました。転載元は私のブログ(ここに当該写真の載った自分のサイトのURL)です。
私はプロのフォトグラファーです。私の写真の使用には料金が発生いたします。
つきましては、料金のお支払いについてご相談させていただきたいので窓口となる担当者の住所とお名前を9月15日までに教えてください。
よろしくお願いいたします。
有賀正博写真事務所
住所○○
メールその1への返信
有賀様
ご連絡いただきありがとうございます。
株式会社○○ キュレーション事業部でございます。
お返事が大変遅くなりまして誠に申し訳ございません。
該当画像の方を削除いたしましたので、ご確認ください。
当メディアに関しまして、弊社はプラットフォーム提供者としての形態を取っておりまして、各記事は個々のライターによって作成されたものとなっております。
それゆえに、記事コンテンツに関する諸問題につきまして、弊社としては責任を負いかねる状況となっていますので何卒ご理解とご了承のほどよろしくお願い致します。
ただし、今回の事例によって有賀様に多大なるご迷惑をお掛けしたと存じますので、該当コンテンツは削除させていただきました。また、本件についてお手を煩わせてしまいましたことを深くお詫び申し上げます。
株式会社○○キュレーション運営事業部
このパクリサイトは、株式会社のくせに担当者名も記されていない返事をよこしてきた。そして基本的にキュレーションサイトは、ライターに責任をおわせて自分たちには関係がないという内容だ。
こんなんで納得するわけない。
即座に用意しておいた返事を送った。
メールその2
株式会社○○ キュレーション運営事業部
担当者さま
返事をありがとうございました。
��)私の写真の使用には料金が発生いたします。現在掲載されていなくても、すでにご使用になった分の料金はお支払いいただきます。
��)プロとして活動している私の著作物を無断で使用されました。これはプロバイダ責任制限法での著作権侵害に当たります。発信者情報開示請求(書き込み者の特定)を行い損害賠償請求を行います。
��)発信者情報開示請求に必要な書類を教えてください。
��)発信者情報開示請求の送付先住所と担当窓口(担当者さまのお名前)を教えてください。
��)以上の手続きに入る前に、作者または貴社担当者から料金をお支払いくださる旨の連絡をいただけた場合は、お支払い金額のご相談を承ります。期限は9月20日とさせていただきます。恐れ入りますが、期限をお守りいただけない場合は当方規定の料金を請求させていただきます。また、民事と刑事の両方での法的手段をとる可能性もありえます。
以上、よろしくお願いいたします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
有賀正博写真事務所
ようするに「法に則って損害賠償請求をするのでライターの名前と連絡先を教えよ」という内容だ。
「しかしことを荒立てるとお互い面倒だから、すくに支払ってくれるなら料金は負けておくよ」と書き添えてある。すると次のような返事が来た。キュレーションサイト5社のうち4社は同様の返事だった。
メールその2への返信
ご連絡いただきありがとうございます。
株式会社○○ キュレーション事業部でございます。
メールの件、承知いたしました。
一旦弊社の方で料金をお支払いいたしますので、お振込先情報と、お支払い金額をご教示ください。
株式会社○○ キュレーション運営事業部
あっさりと片がついてしまった。
意外にすんなりと支払ってくれた
写真の使用料金はレンタルフォト業界最大手のアマナイメージズのそれに揃えているから1点3万円なのだが、さっさと終わらせるために二次使用料扱いにして半額とし、1点1万5千円を請求した。
よく考えたら料金を負ける必用はぜんぜんないのだが、このときは仕事が忙しかったしこういった事務作業を早く終えたかったのでこういう形をとった。本来ならペナルティを加えて2倍請求するケースなんだけど。
なおキュレーションサイト以外からは最初のメールを送った後すぐに支払い了承の返事をもらっている。悪いことをしたという意識があるようだ。一方、キュレーションサイトは何のかんのと言って逃げようとする。コンプライアンス軽視な運営方針であることがよく分かる。
いずれにせよ支払いに応じた会社は1〜2日後には当方の口座に振込完了した。
DeNAのパクリサイトは、現在はサイト自体が非公開になってしまったので秋のうちに料金請求しておいてよかった。まあ、サイトが非公開でもDeNAに請求書を送るけどね。
パクリサイト相手の新商売ができるか?
これまでは、写真やイラストなどをパクられてもクリエイターは泣き寝入りをするケースがほとんどだったと思う。
しかしここで発想を変えてみよう。相手は作品を使ってくださったのだから、使用料をご請求申し上げればいいのだ。無断使用の場合は法律的には「使用料請求」ではなく「損害賠償請求」というのだが、名目はともかく料金を支払ってもらえればそれでよい。
この秋は、無断使用の請求だけで18万円を入金してもらったよ。
こうして悪のパクリサイトがなくなるといいね。
プロはもちろん、アマチュアの方もがんがん請求書を送ってください!
情報源:
キュレーションメディアに写真をパクられたら請求書を送ることにした